「決断できないリーダー」が会社を潰す
読みました。
- 作者: 冨山和彦
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2010/02/01
- メディア: 文庫
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産業再生機構のトップとして、数々の破綻企業の再生に関わってきた冨山和彦さん。
トップとして、リーダーとしての気概が十分に伝わってくるとともに、
彼の持つリーダー像はおそろしくレベルが高い!
というか無理!という高みですが、大変ためになる一冊でした。
「カイシャ幕藩体制」という日本の企業をとりまく環境の例えが秀逸でした。
●カイシャ幕藩体制とは
・戦後の日本は、中央官庁〜大企業からなる「カイシャ幕藩体制」になった。
・中央官庁という幕府、大企業という藩、その社員から構成される武士階級。
・江戸時代の武士階級の人口に占める割合は5〜10%。
これは上場企業グループ社員の全労働者に対する比率と同じ。
・多くの日本人が公務員、大企業のサラリーマン、といった
カイシャ幕藩体制の特権階級を目指してきた。
・しかし、21世紀はこの仕組みが機能しない、絶対に持続不可能、破綻寸前。
・政治家も企業トップもカイシャ幕藩体制の上部構造改革に手をつけない。
・最後は、革命しかない。140年前に起きたころ、人類が繰り返してきた歴史。
●カイシャ幕藩体制の構造的問題
・社会の上層部が腐っている。
・そこに属する個人が腐敗しているのではなく、構造として腐っている、
そこに身を置くだけで腐った行動をとらざるを得なくなる。
・組織の中にいれば、結局は自分が所属する組織が生き延びるために
行動せざるをえない。それが現実。
・カイシャ幕藩体制に入れるかどうかは、学歴で決まる。
そして会社の中では、年功で順番待ちをしている。
・組織が大きくなるほど、外敵ではなく内ばかり見ている。
・結果、会社のトップは内部で勝ち抜いた人、
外部の敵と戦う資質は持ちえていない。
●カイシャ幕藩体制で求められる能力
・日本企業というゲイマンシャフト(自然共同体)的なムラ社会。
・最も評価されるスキルは、内部調整能力。
・会社というのは、営業、開発、生産、といった異なる機能をもった
部門が共存していて、互いに仲が悪い。
・そこで、優秀な人に問われるのは、利害関係の異なる複数の関係者を
うまくまとめて、1つの方向に持って行くこと。
・組織が大きくなるほどに、それが圧倒的に大事な仕事になる。
・みんなの利害関係が一致すること、それが暗黙の社会契約。
・ムラ社会の集団では、どんな優秀な人間であっても、無能レベルに近づく。
●これからの社会
・社会の仕組みは、リーグ戦になる。
・これまではトーナメント戦。
学歴競争から始まり、年功、終身雇用で上がっていく仕組み。
一流大学に入れなかった時点で、入口が決まる。
その後は、資格、試験を経てふるいにかけられ、減っていくゲーム。
しかし、その手のトーナメント戦が占める社会の割合は減ってきた。
・これからは、リーグ戦の中で、勝った負けたを繰り返してきた
人間が活躍するフィールドが広がっている。
なぜなら、リーグ戦を勝ち抜いてきた人の方が、トーナメント戦の
エリートよりも強いから。
負けを知っているいる分だけ実力がある。
トーナメント戦では、負けを知っている人は残れない。
●仕事ができる人、勝てる人、生き残れる人
・逆境において本当に人間を支えるものは、自分は独力で人生を生きていく、
自分にはそれができる、という根本的な意志であり自信。
・リーダーの資質とは、ストレス耐性があるかどうか。
・頭がいい悪いではく、ストレス耐性がない人は、
本当に闘って欲しい局面で、機能しなくなる。
典型的なエリートほど、ストレス耐性がなく、現場で使えない。
・生きるか死ぬかのストレスを一度でも経験したことがあるかどうか。
・極限状態のときは、頭の良さより、ストレス耐性のあるなしが重要。
・追い詰められた状況下で、どれだけ目の前の問題の何が重要で、
何が重要でないかを整理し、最終的に決断できるかどうか。
・多くは、理性を失った側、不合理な行動に出たやつが負ける。
・心身ともにタフなやつが勝つ。
●経営責任とは
・突き詰めれば、自分以外の人たちの人生に対する責任。
・実は、その責任はとれないもの。とりようがないもの。
・経営者には、責任をとれないぐらいの重い責任がある。
・個人においても、他人の人生の責任はとれない。
せいぜいできることは、自分と関わりをもって良かったと思ってもらえるよう、
全力を尽くすこと。
●リストラを通して分かるもの
・リストラするとは、リストラする人としない人とを、線を引くこと。
例えば50人に辞めてもらう場合、50番目と51番目の人では実力に大差はない。
1番と100番では明らかに実力差がある、納得感がある。
その境目は理不尽なもの。
・追い詰められた状況になると、人は本性が出る。
追い詰められるほどに、その人がもっているモチベーション、「我」の奴隷になる。
保身、評判、家族、親、みなそれぞれ個々の動機付けがある。
・リストラ対処のポイントは、とにかく誠心誠意を尽くすこと。
辞めてもらう社員の就職先を探すこと、
退職金を高めに払ってあげられるようにすること、
この2つをやりながら本業をきちんとやること、フル回転でやること。
・最後は本当に努力と根性の世界。
この状態が続くと、ストレス、負荷がかかってくる。
睡眠不足、疲れ、思考力が鈍る、間違った判断を下してしまいがちになる。
・そういったストレスが合わない人は経営者になってはいけない。
・若い時には、負けるとわかっていても危機的状況に身をさらし、
自分がどういう人間か、確認する機会を持ったほうがいい。
●組織における個人のモチベーションの重要性
・必ずしも、社員は会社が目指すべき方向へ全員が走ってくれない。
・それぞれの人生、価値観、動機付けはバラバラ。
・いくら個人としては優秀でも、会社方針とは反対向きの強烈な動機付けが
働いていると、その人の存在は組織にとってマイナス。
・個人の益、会社の益、公の益を同じ方向に向けることが大事。
難しいが、それが一緒になれば、ものすごい力が出る。
・逆向きのモチベーションしかない人に、頑張れと言っても、
意味のないストレスを生むだけ。
●倒産するプロセス
・倒産する会社とは、戦略的に方向性を誤ったとか、
環境変化についていけなかったとか、舵取りを誤ったとか、
戦略展開の成否の問題ではない。
・倒産するプロセスとは、非常に人間的な生々しいもの。
人間の弱さがみんな露呈して、だんだん傾くもの。
・会社の舵取りなんかは、コンサル会社を雇えば、正しい結論を出してくれる。
・その当たり前の結論に対して、戦略的な合理性で組織を引っ張っていけるか、
そういった合意が作れるか、そこが成否のカギであり、難しいところ。
たいていはそれができない。
・戦略的合理性を貫こうとしたら、自分の良心が痛むもの、
判断が間違った方向に振れていくもの。
●答えを先送りにする人
・勉強はする、猛勉強した挙げ句に、先送りにする。
・事例をいっぱい集めて勉強しても、答えは出さない、アクションも起こさない。
・自分が下した決断が間違っていたら責任を問われる、それを恐れる。。
・決断もできない、責任もとりたくない人は、人の上には立ってはいけない。
●ガバナンスとは
・ガバナンス(企業統治)の本当の仕事は、経営者の首を切ること。
・いざという時に、経営者の首を切れるかどうか、それがすべて。
・ガバナンスする側にも経営者と同じ責任が伴うもの。
いざという時に、自分が社長と代わる覚悟をしている人のこと。
・文句を言うのは簡単、だけど最後の最後は、自分がCEOとして
代われるかどうかということ。
●ストレス耐性を身につける
・意識して「グレる」こと。
・グレると、世間の風当たりが強くなり、ストレスがかかる。
・世間は最初から冷たいもの。
その中で、課題を一つひとつ解決していく中で、実力もつき、
人間も鍛えられる。
・周りから認められようと思わないこと、
みんなに愛されようとしない、嫌われ、憎まれ、生意気であること。
ちゃんとした目的を持ち、勝負して勝負すること。
・自分を自己否定すること。
●無能な上司はあなたにとってチャンス
・アホな上司、出来の悪い上司というのは無能。
見方を変えると、いくらでも部下にチャンスがある、
反面教師の材料がたくさんある、勉強になる。
・逆に仕事ができて、部下に手柄を譲るような上司は注意。
一見よさそうだが、よく見ると部下に権限委譲していない。
全部自分でシナリオを書いて、絶対大丈夫なように保険をかけ、
最後のいいところだけ若手に花を持たせ、いい気持ちにさせる。
本当に部下を育てようと思ったら、あえて関わらないほうがいい。
・大事なことは人の行動をよく見ること。
有能な上司からはパクる、無能な上司からは反面教師で学ぶ。
・自分の身の不幸を嘆くことが一番、非生産的な態度。
●自分探しは無意味
・人生を探すのではなく、自分の人生を生きること。
・鏡に映った自分を見つめるのではなく、周囲にいる人に関心を持ち、
観察すること。
・引きこもる期間が長いほど、目の前の課題に答えを出すのを引き延ばすほど、
リスクは増大する。
・人間は誰しも、自分という会社の経営者であり、リーダー。
その年齢に応じた経営課題がある。
自分という会社はどんな商品を売り物にして、利益を出していくのか、
5年先、10年先はどのような規模で、どんな会社にしたいのか。
そのためには、どこからお金を調達して、何に投資すべきか、
それを考えるのはあなたしかいない。
●経営の本質
・経営の本質とは、難しさの本質。昔から変わらない。
一方で、儲けという経済合理性の追求、
他方で、人間学、論理学、哲学、情理。
・経営者、リーダーになりたいと思っている人は、
合理と情理をどう超えていくかという自分なりの方法論、
スタイルを時間をかけて苦労しながらつくり上げること。
・上昇志向の強い人が目指しているポジションとは、指揮官の立場。
将棋の駒ではなく、棋士。
・優秀な司令官とは、演じる立場とプロデュースする立場、その2つを意識する。
・指揮官になる資質のある人は、端役の役者時代から、自分がプロデュースしたら
どうするかを頭の中でシミュレーションしながら演じている。
・第三者として自分を冷静に見つめることのできない人は、
経営者やリーダーのポジションを目指してはいけない。