デザイン思考と経営戦略

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デザイン思考と経営戦略

デザイン思考と経営戦略

アマゾンから何度か発売延期のお知らせがあり、ヤキモキして待っていました。奥出先生の前作「デザイン思考の道具箱」から5年、待望の続編です。デザイン思考を活用して、イノベーションを起こし、企業の経営戦略として活用する手法について説明した一冊です。
前半はまさに本題の経営戦略に内容が割かれています、大物経済学者の名前や引用もバンバン登場し、私のような下っ端の立場では若干引き気味に読んでおりました。それだけ経営層にデザイン思考の重要性を訴えることが重要なことなのでしょう。後半はデザイン思考実践の内容が細かく記述されており「デザイン思考の道具箱」からよりバージョンアップしたものになっています。
奥出先生のアプローチは、私が最近学んでいるHCDのアプローチとは一線を画したものに見えます。見る視点が随分と上の方にあるような。あと奥出先生の独自の概念である「メタ」については、本書だけでは理解できないように思えます(メタデザイン、メタエンジニアリング、メタナショナル)。あと図解が少な目なので理解がより難しさを増している感があります。しかしながらそれらを差し引いても大満足の内容です。

●デザイン思考とは
ドミナントデザインを生み出し、イノベーションを起こす方法
・自らが事業機会を見つけ出し、戦略ポジションを新しく作り上げる方法
・最終的なモノや形や表現の領域ではない、デザイナーの仕事を奪うものではない
・厄介な問題に挑戦する方法
・問題解決の方程式ではなく、問題解決を行う方法論の一つ
・効率性を求めるシックスシグマ、創造性を実現するデザイン思考
・デザイン思考はデザイン手法ではない。それ以上のもの
イノベーションの構造的変化に対応するマネジメントの方法

ドミナントデザイン
・自動車、テレビ、PCなど、大体どんな形をしているか、どんな部品を集めれば完成品ができるか見当がつくもの。
・市場で一つのプロダクトデザインしかないもの。
・一度、ドミナントデザインが決まるとあとは価格競争になり、安くて優れた製品が市場を席巻する。コモディティ化
・今までにない「全体性」を生み出し、市場にそれを普及させてドミナントデザインとすること。それができれば、その会社はしばらく競争において優位に立てる。

●できるだけデザインをしない
・デザイン思考の背景には、デザイナーはプロダクトデザインをすることをできるだけやめようという強いメッセージがある
・20世紀産業に特化したデザイン手法に対して徹底的な反省をせまるラディカルな態度がデザイン思考
・20世紀の産業システムは終焉し、産業デザインもその役割を終えた。
・この領域に向けて人材育成をしてきた美術大学デザイン学科、プロダクトデザイン、グラフィックデザインパッケージデザインも同じ。
・プロトタイプで試されるのはデザイン手法ではなく、デザインマインド

●日本企業の問題
・製品イノベーションが行われていない、コンセプトを説得力のある形で説明できない、破壊的イノベーションの手法を持っていない
イノベーションを実行する組織を持っていない
・ローテクで実証済みの技術こそが破壊的技術
・過剰スペックはローテク蔑視の表れ

●20世紀のものづくり
・市場の求めるものを発明し、その仕組みを考え、生産の仕組みを考え、コスト削減のために一部の部品は社外にアウトソースして、そのあと組み立てて出荷する、そしてマス広告。

●21世紀のモノづくり
・何を作ればいいかの製品コンセプトを、今の社会、顧客との対話で見つけ出す。ネットワークにつながりさまざまなサービスを提供しているソフトウェアの世界と密接に結び付く。多くの部品は社外にアウトソースされる。デザインやインターフェイスが魅力的であるだけではなく、顧客の行為を支援するソフトウェアと分かちがたくハードウェアが連動し、コンテンツを提供する仕組みとも連動する。またアクセサリーというハードウェアとも連動する。
・求められるのはプロトタイプを素早く作る設計力を持った人材
・研究と開発をつなぐプロトタイプ主義の能力を身につけたメンバーが社内にいるかどうか
・インタラクションデザイン、目に見えない経験をデザインする。人間を観察し、手を動かして考える。作るという作業を繰り返す経験が必要ということ。
・人々を観察してプロトタイプを作るというデザインプロセスに、物語を語るという新しい要素が加わる。

●新規事業の創出における5つの問い
1.何を作るのか(商品/サービスのコンセプトと全体像)
2.なぜ作るのか(目的、作る人間のモチベーション)
3.どうやって作るのか(自社技術の棚卸、先端技術)
4.どうやって生産するのか(生産技術、量産)
5.どうやって届けるのか(流通と決済がセットになった方法)

●デザイン思考でやってはいけない7つのこと
1.答えはここになるのであって、外にはないと考える
2.話してばかりで作らない
3.可能性を検討している時に、実効性を議論する
4.利口にふるまう
5.間違いを許さない
6.他部門が集まれば多様な視点を得る勘違いする
7.プロセスを守ればうまくいく

●初級編
1. Fact-Finding 事実を見つける
2. Problem-Finding 問題を発見する
3. Solution-Finding 解決方法を見つける

●3つの行動原則
1.全プロセスを全メンバーで行う
2.インフォーマントの日常と経験に同化する
3.作りながら考える

●コンセプトが魅力であるかのガイドライン
1.コンセプトの図を描いた時に、そこに人間が含まれているか
2.コンセプトをユーザーが利用するときのコンテキストがきちんと描かれているか
3.提示されているコンセプトはユーザーのコンテキストに置いてみて、いままで存在していなかったものであるかどうか
4.コンセプトが加わることで、コンテキストがより魅力的になったかどうかを確認する
5.コンテキストを明確にしてコンセプトを描く

●今日の一枚+α